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自作小説「影絵」の原稿置き場です。 ※未熟ではありますが著作権を放棄しておりません。 著作権に関わる行為は固くお断り致します。 どうぞよろしくお願い致します。
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【ある老婆から傷ついた少女への言葉】

女はみんな男にはちっとも敵いやしないんだよ。自分の身を守るったってたかが知れているねえ。
だから、わたしらは男を味方に付けなきゃあならないのさ。
大丈夫。あんたさんはまだ若い。いくらだってやり直せるさ。このしわくちゃの婆あが言うんだ、間違いないよ。あんたはまだこんなに綺麗だ。いくらでも男が寄ってくるだろうさ。本当にいい男を見つけるといい。守ってもらいな。そしてそのやっこさんとめんこい子供作るんだな。その子供を死ぬ気で守んな。子供を守るってことは、家族を守ることだ。あんたの愛する旦那を守ることだ。あんたの旦那が愛しているあんた自身を守るってことなんだよ。
今回のことは忘れちまいな。悪い夢だったのさ。狼に食われたようなもんさ。あんたは食われて、またもう一回生まれてきたんだよ。ここからやり直すのさ。大丈夫。女は思っているより強いんだ。わしを見てみな。こんな醜態晒してもまだぴんぴんして生きてるんだよ。どうだい、強いもんだろう?図太いもんだ。
そうだ、あんたさんに一つ、昔話をしてやろうかね。わしがまだめんこい頃に母親から聞いた話だよ。母親はそのまた母親から聞いたって言ってたっけねえ。
昔々、とある小さな森に囲まれた村に、それは愛らしい娘がいたんだよ。誰もに愛されて、誰より美しく育った。だがある時、娘は孕んだんだよ。嫁入り前だった。相手は誰かもわからない。その頃は酷いもんでねえ、そういう『汚れた娘』は勘当されて森に放り出されるのさ。獣の餌にでもなっちまえばいいんだって言ってね。獣同然の扱いを受けるんだよ。ああ、怖がるんじゃない。大昔の話さ。今は違う。あんたさんはなんにも汚れちゃあいない。
娘は森に放り出された。そして十数年の時が経った。誰もが娘のことを忘れていたある日、その娘は、捨てられた時と全く同じ少女の姿で、また村に戻ってきたんだ。娘は記憶を失っていた。そして娘の腹には、まるで嘘のように子供なんかもちろんいやしなかった。まるで神隠しのようだった。娘は虚ろに「神様が助けて下すった」と呟いただけ。

娘の髪には紫の花が挿してあった。村では見たことのない花だったから、後日男たちがその花を持って、森の中に入ってみたんだ。森の奥深く、男たちはようやく、それと同じ紫の大輪の花が咲き誇る場所に行き着いた。真ん中には太い立派な木があった。そしてそこに男たちは神さんを確かに見たんだよ。神さんは男の持っていた花を見て、例の娘の時間を巻き戻したのだとおっしゃったんだ。つまり、全部なかったことになってたってわけさ。娘は綺麗なまま戻ってきたんだ。以来、似たようなことがあっても、娘を森に捨てるような親はいなくなった。なぜだって?だってそりゃあ、罰当たりだろう。そんな慈悲深い神さんがいるっていうのに、とても恐ろしくて娘を捨て置くなんてできやしないねえ。
伝説だからね、本当に娘の時間が巻き戻ったのかなんてわかりゃしない。子供はどうなったのかなんて、真実は闇の中だよ。だけど娘はそれから幸せに暮らした。神様は見守って下すってる。娘は忘れちまったかもしれないけど、覚えている人間はいる。けれど娘は幸せになった。要はどう生きるかさ。お前さんだって捨てたもんじゃない。気を強く持つんだ。くじけたら、森の神さんに祈るといい。神さんはわしら女の味方なんだよ。

そうだ。間違っても死んじまおうなんて思うんじゃあない。婆あになってからでいいのさ。辛いときは神様に祈んな。わしもずっとそうしてきたさ。



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影絵






神様


ねえ、神様?

神様は、本当に必要なの?こんな仕打ちで、本当に、『存在しなければ』いけないの?なんのために?

ねえ、答えてよ

答えてよ!!






序章


大地が揺れる。
一本の、樹齢何千年とも知れぬ大木の底から、世界が割れるような振動が生まれ、広がっていく。
既に首が痛くなるほどまで顔を上げなければ認めることのできなかった木の頂上は、信じ難い速さで更に空に突き上げて伸びていく。それを追いかける様に若い枝が空高く分岐していく。
まるで大きすぎる蚯蚓のように、土の床を突き破り、木の根はうねるように当たりを馬の走るより速く伸びて森の奥深くへと侵入していく。
テレザは呆然とするしかなかった。
まるで化け物のように伸びゆく木の根の先は、住み慣れた村へと向かっていると頭では分かるのに、恐怖すら湧いてこない。
テレザはただ、目の前で木の幹を、いや、木に宿る『創造主』と呼ばれる存在を気丈な眼差しで睨みつけている少女の背中を見つめるしか出来なかった。
大木とよく似た白灰がかった薄茶の髪が、振動に揺れる。
少女の見つめる先で無表情に宙に浮かぶ美しすぎる少年は、ただ両手を広げて空を仰いでいる。
その間、数分も経っていなかったのかもしれない。それでもテレザには、気が遠くなるほど長い時だったように思えた。
「さあ、出して」
テレザの目の前の少女は低く少年に言い放つ。少年はうつろな眼差し、焦点のあっていない目を少女に向けた。
青みがかった紫の瞳が、梢の影を反射している。
「さあ早く!!」
少女の強気すぎる物言いに、テレザはさすがに肝を冷やした。思わず少女の腕をつかむ。
「アピュリ、もうやめよう?取り返しがつかなくなるわ、ううん、もう取り返しなんてとっくにつかなくなっているのかもしれない・・・!」
「離して!!」
アピュリュテはひどく怒った様子でテレザの手を振り払った。振動にまかせてテレザは体制を崩し、尻餅を付く。
アピュリュテは少し心を痛めた様子だったが顔を反らした。
「わたしは諦めない・・・!誰かがやらなきゃならないことなの!!でなきゃ何も終わらない!!」
「終わらせてどうするのよ!?」
テレザも叫んだ。
「ねえ、だって、さっきと言ってることが違うじゃない、神様はなんにも、あんたの思ってるようなこと望んでなんかないわよ!」
「そんなことない」
アピュリュテの声は静かなのに、よく通った。アピュリュテは、少年を見上げる。
少年は虚ろな目でアピュリュテを見つめながら静かに泣いていた。瞬きもしないで。
アピュリュテはその眼をまっすぐに見据える。
テレザには入り込めない、強い絆がまるで存在するかのように、二人は見つめ合っていた。やがてアピュリュテは静かに言う。
「わたしは諦めない。何も捨てない。見捨てたりもしない。だから、ほら」
アピュリュテは静かに手を伸ばす。
「渡して。わたしに頂戴。絶対に、守るから」
少年もまた、静かに、ためらいがちに手を挙げる。
「わたし、悪者にだってなんだってなるから。だからわたしに頂戴。返して。ここに返して!」
瞬間、木の周りに群生していた紫の花たちが、一瞬で粉と化して、風に舞った。
少年は少しずつアピュリュテに手を伸ばす。やがてその爪と爪が触れるか触れないかまで近づいた頃、少年の薄橙の髪は、鮮やかな金色の髪に花開くように生まれ変わった。少年は瞼をとじる。その瞼の奥に輝いていた瞳は確かに、花が散った瞬間色を失ったようにテレザには思えた。アピュリュテは少年を抱きしめた。強く。まるで男が女を掻き抱くように強く抱きしめていた。
「あなた本当に女なの?私と同じ?」
テレザは思わず、ポツリとつぶやく。けれどその声は、突如森に響きわたった耳を潰すかのような甲高い悲鳴にかき消された。テレザは慌てて耳をふさいだ。
アピュリュテに抱きしめられた少年が、悲鳴を上げていた。
少年の体が、まるで古びた木のひび割れた皮のように、風に吹かれて剥がれ崩れていく。
腕は、もう人のものとは思えないほどに細くなっていた。まるで枯れ枝だ。それでもアピュリュテは彼の体を離そうとはしなかった。少年の崩れた体の破片は、やがてアピュリュテの皮膚にまとわりつき、侵食していった。まるで彼女の皮膚を、肉を食らうかのように。それは蛭のようで、アピュリュテの皮膚は赤と青のまだらに染まっていく。
「アピュリュテ!!逃げて!!逃げてよ!!」
「いや!!」
アピュリュテはかたくなに首を振った。少年の腕と同様に、アピュリュテの手足もまた醜くやせ細っていく。テレザは気が遠くなりそうだった。
「だから・・・だから言ったのよ!!神様になんか手を出しちゃいけないって!!!」
「そんなことない!!」
アピュリュテは、驚くほどの勢いで叫んだ。その瞬間、三人の後ろで、少年の眠りについていた大樹は、まるで砂山のように粉になって崩れていった。同時に地響きはやんで、代わりにありとあらゆる植物たちが、粉となって風に舞い、空の奥へと螺旋をなして消えていく。
テレザはそれを呆然と見つめたあと、はっとして二人に視線を戻す。彼らはすっかり砂の塊と化していた。テレザは悲鳴を上げそうになる。
【やはり、もう一人、依代が必要だったのか。】
瞬間、空から鉄琴のような声が降り注いで、テレザは震える体を抱えて空を仰いだ。空に吸い込まれたはずの緑の粉は、塊となってテレザの頭上に集まる。やがて火の光に照らされ輝くと、それは先刻までアピュリュテが抱きしめていた少年と瓜二つの姿となった。紫の瞳に、薄橙の柔らかな髪。テレザのそれと、同じ色の髪。
「あなた・・・」
怒りが湧いてきた。アピュリュテは全てを犠牲にしてまで少年を救おうとしたのに、どうして彼女だけが死んで、こいつだけは生き残っているのだろう。
けれど、少年は首を振った。
『私は“彼”ではない。彼は消えた。消滅した。私は彼が今まで育ててきた大地そのものだ。彼が消えた今、私もまもなく消えるだろう。この意味がわかるか?』
テレザはひゅうひゅうとざらついた音しか出さない喉元を抑えて、首を振った。
『世界は在りし姿に戻るだろう。全てが生まれる以前の姿だ。この世界は、“彼(ロゼル)”の存在によって成り立っていた。全ては砂塵と化すだろう。この二人のように。あの彼が愛した紫の花のように。水もない。色もない。命のない世界だ』
少年はそっとテレザの目元をぬぐった。少年の体は透けているのに、その指先はまるで人肌に触れた時のように、しっとりとして温かかった。
『救いたいか?世界を。いや・・・彼らを、救いたいか?お前にならできる。お前に、彼女のような覚悟があるのなら、だが』
少年の紫の瞳から、テレザは目を離せなかった。まるで魅入られてしまったかのようだ。テレザは怖かった。それでも、震えながら、小さく、頷く素振りをした。きちんと肯けなかったことが悔しくてたまらない。きっとアピュリュテだったら、迷わずに強く深く頷くのだ。
少年はまぶたを閉じてそっと両手でテレザの頬を包み、額を合わせた。
『お前が世界の母になれ。ただし何も言ってはいけない。お前はこれから嘘をつく。誰にも明かしてはいけない。二人が思い出すまで、嘘を貫き通さなければならない。お前は誰よりも悪人になるだろう。だが私が守ろう。お前を守ろう。だから耐えてくれ。私も彼を救いたい。助けてくれ』
少年は左手を離すと、今度はテレザの下腹にあてた。薄橙の鈍い光が灯る。
『二人の瞬間だけを、巻き戻す。さすれば彼らの消去はなかったことになる。彼らが今この時を繰り返すその時まで、お前が彼らの時を守れ。お前はこう言うのだ。“彼女”が“ロゼル”を消去してしまった、と。それだけでいい。同じ名前は付けるな。これは呪いであり、守護だ。決して二度と同じ存在を作ってはならない。作り替えなければならない。時が満ちたら、迎えに来る。私はそれまでまた芽を出しておこう』
少年が言葉を終えたと同時に、風がぴたりとやんだ。テレザはかすむ視界の中、少年に向かって手を伸ばした。けれど霞は濃くなり、やがて真っ白になった。下腹部に鈍い痛みを覚えて、テレザは気絶した。何事もなかったかのように、一筋の風がもう一度吹いて、テレザの額を撫でていった。




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